2008/11/15 up

9月某日@渋谷区役所

許可申請のため渋谷区役所へ
暗渠内潜入許可申請。
.....正午過ぎ、オレとマネP、S水氏、そしてカメラのK平氏は渋谷区役所前にいた。
「じゃ、行きましょう」
「.....っていうかさ、そんな簡単に申請が通るもの?」
「あ、もう許可は降りてるんで」
「は!?」
「書類上の手続きと挨拶ですよ」
.....TVって凄イ。
一応断っておくと、暗渠の中に勝手に入ることはもちろん許されない。また、個人で「中に入りたい」と言っても当然ダメ。従って、オレは今までそんな夢を描いたことも想像したこともなく、だからこそ畠山直哉氏の写真集"Underground"やweb上の暗渠写真を見て、その上をただウロウロしていただけなのだ。
それが今、突然実現しようとしている。打ち合せ時にM川プロデューサーとS水ディレクターが言った「春の小川に行きましょうよ」は、コレだったのだ.....。
正直に言えば、怖い。
真っ暗な闇。恐らくモノ凄い異臭。そして、"Underground"に載っていた、多くの生物やカビ。
.....自分が恐れたのは、"春の小川"に幻滅してしまうこと。
そこにはすみれも蓮華も咲いてないし、エビや子鮒の群れもいない。40年以上経って、朽ち果てそうなコンクリートの護岸や蓋の中で、ただ雨水が流れている様。2年前に金王橋から渋谷川に降り立ち、その時感じた上流からの生暖かい風、異臭、そしてあっという間にオレを取り囲む蚊の群れ。
その現実を、オレはno river, no lifeで伝えたかったのだから。
「S水さん、入ったことあるの?」
「あるワケないじゃないですか」
「.....そりゃそうだよね」
「加瀬さんが入るのに相応しいんですよ」
区役所土木課へ。担当の方は
「ああ、貴方達ね。伺ってますよ。.....今年はゲリラ豪雨とかあったから、くれぐれも気をつけて」
.....なんてカンタンな.....いや、もしかしたら交渉の時点ではもっと大変だったのかも知れない。で、同じTV局でも、それがNHK(ちなみに区役所の真ん前)だとけっこう通りやすいとか.....真相は解らないし聞かなかったけど、とりあえずオレは渋谷川暗渠に、稲荷橋の下から入って行くことが決まった。
.....後日、S水氏が既にある程度の編集を行い、そしてM川プロデューサーやNHK側に見せながらケンケンガクガクの論議があったことを聞いた。
「今回の放送は、多分今までの熱中時間とは違うコンセプトのものになります」
要約すれば、趣味で楽しい時間をイキイキと過ごす人を追いかける筈のこの番組、本来なら地図を片手に、橋跡や銭湯などの"ヒント"を頼りに暗渠探しに没頭する金髪/グラサンのミュージシャンが、夢が叶って暗渠に潜り、「スゲエスゲエ!」を連発する、みたいな流れになる筈だった。
が、数度に渡るロケを経て、ずっとオレと行動を共にして来たS水ディレクターは「この人は、もっと大きな何かを抱えているのでは」と気付いた。コンセプトからは外れるかも知れないが、それを引き出したい。そして、春の小川記念碑の前で、その一辺を知った。悶々とした想いで絵を繋ぎ、NHKと議論。NHK側としてもこのテーマは社会的に軽卒に扱うべきではないと判断、ならば徹底的に深く掘り下げるべき、との提案がなされたんだそう。
.....なんかオレ、とんでもナイことしてしまったのでは.....。
「で、放送がちょっと早まりまして、10月15日になりました。通常はBSやってからダイジェスト版を総合TVでやるんですが、今回は逆にまず総合からになります」
.....10月15日って.....あと半月くらいしかナイじゃん!?。
「大丈夫なの?」
「大丈夫です.....いえ、何がなんでもなんとかします!」
正直に言っちゃえば、音楽ビデオとインタビュー関連以外知らないオレに、実際本編18分のこのTV番組を作るのにいったいどれだけの日数/時間が必要なのかなんて解らない。ロケをずっと見ているマネPによれば、1回のロケで撮るテープの時間は恐らく4〜5時間分。つまり、見るだけだってそのくらいかかるってこと。
「それで、もう一度あらためて加瀬さんにインタビューしたいんです」
.....確かに、オレはここまで「どんな気分か」と何度聞かれても、あやふやな答しか出来なかった。それが、S水氏は前回のロケで少し見えて来た。
いったいこの男は、何故暗渠を辿るのか。
その"核心"の部分を、S水氏もNHKも、そしてTVの前の皆さんも、必要としているのだ。
はっと気付いた。
1964年の東京オリンピックは10月10日〜24日に開催、オレは3日目の13日に誕生。
オリンピック・ベイビーによる、東京オリンピック開催に至る日本の都市化と、その後の現実。
彼等は、44年後の今、そのオリンピック開催期間内にこの番組を放送したいのだ。だから放送が15日に繰り上がり、しかも異例の地上波からなのだ。
.....生まれた時から眼の前に聳え立っていたNHK。
そのNHKを、オレは動かしてしまったのかも知れない。


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