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加瀬: |
2012年、唱歌"春の小川"(高野辰之/岡野貞一作、1912年発表)生誕100周年です。まず春の小川の「今後」。土管のあった空き地でジャイアンとのび太やド根性ガエルのヒロシとゴリライモが決闘してから半世紀が経とうとしている。東京オリンピックを目標に大慌てで行った暗渠化ですが、当時のまま、と言う状況の中、その耐久性/安全性が問われてもいます。 |
田原: |
東京の下水道管が古くて危ない、と言うのは実際に言われています。これは下水道局の方がちゃんと考えてるとは思うんですが、あまりにも古いものに関しては資料が残っていないようです。ただ、我々の知らないところで下水道局の方々が「縁の下の力持ち」として、非常に努力されていることは知っていて欲しいですね。 |
加瀬: |
東京オリンピック当時に遊歩道や生活道路として暗渠化され、そして老朽化した今、本当にその道の下に川が流れていることを知らない人がたくさんいらっしゃるんですね。で、その事実を知ると、再び蓋を開けて景観を取り戻すべき、と言う意見が出て来ます。で、我々ふたりに共通しているのが「今更蓋を開けることに意味はない」。 |
田原: |
少なくとも、川跡は、かつてはこうであった、と言う歴史を教えてくれるもの、広い意味での「文化財」と言っても良いと思うんです。ここに川があった、と言うことを知ることによって、地域への愛着と言うか、より深く知ることによって本当の意味での愛着になるのではないか、と思います。ああ、昔はこんな川があったのか。でも何故、今はないんだろう、と考えること。それが大切なのであって、「復活」と言ってもそれは新たな人工の川でしかない。なのでそれぞれがかつての姿を認識した上で、今を暮らして欲しいですね。 |
加瀬: |
韓国で、一旦都市化で潰してしまった川をまた元に戻したところがあるんですよね。もの凄い行動力だな、と思うんですけど、暗渠化した時に死んだ命はそれでは蘇らない。ただそれが「もう繰り返さない」と言うメッセージのモデル・ケースであるならば凄いプロジェクトだと思う。でも、仮にそれを"春の小川"でやるとなると、なんかピンと来ない。 |
田原: |
川はひとつの川単体で成り立つものではなく、人々の生活圏の中で存在するものですから、良い面だけを取り上げても違うんですね。 |
加瀬: |
"春の小川"も、決して美しい姿だけではなく、地形的に水害の多かった渋谷を象徴するような川だったかも知れないですしね。 |
田原: |
自分にとって"春の小川"と言うのは、ひとつの「都市河川の象徴」なんです。まさに日本の都市部における、川の変化のあり方を教えてくれる典型的なものであり、キーワードなんですね。だから川を考える時に好んで使っているんです。 |
加瀬: |
記念碑の建っている河骨川は、あくまでも"春の小川"の象徴でしかなくて、同じような運命を辿った川は他にもたくさんある。 |
田原: |
私の場合、歴史的な経緯については、渋谷のことにしか詳しくないんですが、ただこれは他の色々な川にも当てはまることであり、そこではまた違った状況を見せているかも知れない。渋谷の"春の小川"と同じ部分、違う部分、それぞれ色んな個性を持っていると思うんです。ひとつひとつの川を見ることで、より「川」と言うものへの理解が深まって行くと思うんですよ。それでまた、地域の川への理解が深まって行く。それで良いと思うんです。 |
加瀬: |
僕のサイトへの意見で「子供の頃の謎がだんだん解けていくような感覚」と言うのがあったんですよ。意外に共感してる人達がいるんだなって。 |
田原: |
中学生の頃のモヤモヤした気持ち、まるでパズルのピースが上手くハマった時のような感覚って言うんですかね。あれはひとつの「快感」ですね(笑)。 |
加瀬: |
そう言う意味じゃ、白根記念渋谷区郷土博物館
・文学館での「春の小川」の流れた街・渋谷-川が映し出す地域史-('08年)は衝撃だった!。丁度僕達はTV番組"熱中時間"のロケをやってて、もうそろそろ佳境に入った頃、マネージャーが「こんなのやってます!」って僕と番組担当ディレクターにメールして来て、急いでロケ日増やしたんですよ(笑)。 あの特別展がなかったら、絶対あの番組は違う方向で進んでた。少なくとも後半の進行はアレでずいぶん変わりました。 |
田原: |
凄い偶然でしたよね!。その頃って、暗渠そのものを取り上げるとか、そんなことやってる人滅多にいないけど、本当に良いのかな?、とか思ってました。で、ああ。少なくともここに共感してくれる人がひとりはいるんだ、と思って嬉しかったですね(笑)。 |
加瀬: |
基本的に孤独ですもんね!(笑)。 |
田原: |
展示も、恐らく普通の方にはマニアック過ぎてて、本当にこれにハマる人いるのかな、と思ってたらまんまとハマってくれたんです(笑)。思った通りの反応を示して頂いて(爆笑)。 |
加瀬: |
でも、最初はご年配の方々がノスタルジー、と言う捕らえ方で来てらっしゃったのが、番組放送後に若い人が増えましたよね。 |
田原: |
そうなんです。懐かしさとも違うし、リアルタイムでない人達が来てくれたのが嬉しかった。やっぱり皆同じこと考えてたんだな、と。そう言う意味でも、あの展示会をやったのは良かったと思っています。 |
加瀬: |
僕にとって、渋谷の"春の小川"伝説、みたいなものの「答」があの展示会でしたね。で、あの時のガイドブックは我が家の家宝です、と(笑)。 |
田原: |
深く調べる、って実は凄く難しいことなんですけど、こうして身近なものをテーマに掘り下げて、そして発表出来たのは本当にありがたいことだと思っています。これを機に、川を通して地域、と言うものを見つめ直してみて欲しいですね。 |
加瀬: |
"春の小川"から100年。たったの100年なんです。一体"春の小川"って何だったのか、きちんと考えるには良い機会だと思いますね。 |