D・"Sub Rosa〜薔薇の名の下に集え〜"
2005/09/26 @shibuya-AX   2005/10/18 up

'03年春に彼等の初音源のミックスを手掛けてから2年半。これまでに6枚のミニ・アルバムとシングル、3枚の限定アイテム、そして2種類のコンピレーション参加作品を共に制作して来たDが'05年秋に遂に初のフル・レングス・アルバム"The name of the ROSE"を発表。リリースを記念して9/26に渋谷AXにてワンマン・ライヴ"Sub Rosa〜薔薇の名の下に集え〜"が開催された。

.....遡り'05年7月。我々は都内某所のスタジオでアルバム"The name of the ROSE"の制作をスタートした。殆ど合宿に近い状況で全員がスタジオに缶詰めとなり(常に全員揃っているところがこのバンドの素晴らしいところだ)、当初の予定を少々押し、予定を数日上回ったところで数日間のオフ。このペースならば多少無理すれば充分リリースに間に合う。しかしここで突然事件が起きた。
-ベーシスト脱退-。
.....一身上の都合である以上望むべくものは無いが、バンド結成以来苦楽を共にしたメンバー達は途方にくれた。オレ自身もかつて自らのプロジェクトに起用する等、ベーシスト・加瀬竜哉の一番弟子のような存在でもあった彼の脱退はメンバー同様の悲しみを持って受け止めざるを得なかった。そして、残りの日程を前に我々は決断を迫られた。ゲスト・ミュージシャン起用は時間的に不可能、つまり選択肢はリリース延期か、未完成トラックのままでのリリースか、である。
.....しかし、彼等が記念すべき初のフル・アルバムに相応しい方法として選んだのは、ここまで全ての作品に関わって来た加瀬竜哉の起用であった。

毎晩ラーメン(笑)
オレには悩む理由も猶予も無かった。メンバー同様に楽曲を理解し、既に録音されている"グルーヴ"に対し、演奏と言う形で作品に貢献出来る人物を探すには、あまりにも時間が足りない。作業が再開され、アルバム全曲とP.V.用の1曲の全11曲のベース・パートを12時間で録り終え、メンバーはその日の夜から出発する撮影/イベント/ライヴをただのひとつもキャンセルせずに敢行(ライヴはギタリストのHIDE-ZOUが急遽ベースにコンバートし、4人編成でこなす)、留守を預かるオレはそのままキーボード・アレンジとミックスに突入したのである。
9月。目前に迫ったアルバム・リリースと"Sub Rosa〜薔薇の名の下に集え〜"@渋谷AXを控え、オレにはもうひとつ仕事があった。Sub Rosa Tour用のオープニング/エンディングS.E.曲の制作である。
まず着手したのは、彼等のライヴ終了後のカーテン・コール時に流れるBGM。"EDEN"。.....Dの代表的な叙情派ナンバーであるこの曲には長調転調が無い。ただひたすらに切なさを追い求める短調曲、アレンジして行く上での制限は当然多い。当初、彼等の希望は「壮大なイメージ」だったが、苦悩の末に柔らかなピアノにチェロとピッコロをシンプルに添え、"EDEN/piano forte"と名付け、嬉しい事にメンバーの一発OKを貰う。
そして問題はオープニング。今回のアルバムでは"アナログとデジタルの融合"をテーマに、"悪夢喰らい"と言う曲では生ドラムとブレイク・ビートの共演、と言うアンサンブルにトライした。その"デジタル・フォーマット"と言う領域でのオープニングは今回が初の試みとなり、メンバーもオレもその"答"に接点を見い出すのに少々苦労した。紆余曲折の末、最終的にオレはいくつかのサンプリング・ビートとフレーズを準備し、ヴォーカリストのASAGIをスタジオに呼ぶ事にした。彼自身もまた、自らの声を従来のサンプリング・サウンドにありがちな"素材"としてではなく、完全な"Sub Rosa Tourの為の作品"として制作する事を選んだのである。そうしてオープニングS.E."Sub Rosa"が完成したのは、渋谷AXの僅か二日前だった。
そして、この"Sub Rosa"にはオレ自身が制作段階から更なる計画を秘めていた。
-AXを揺らす-。
'02年に初めて渋谷AXを訪れた際、ハウス系のサウンドで"スーパ・ロー(オーディオ分野で言うところの超低音、通常の家庭用スピーカーでは聞こえない)"をガンガン鳴らし、AX全体がアクセントで揺れる程のボトムを出していたオペレーター氏がいた。この時AXはその構造上、ある一定の周波数より下を大音量で鳴らすと張り出した2階席部分が振動し、ホール全体が共鳴する事が解ったのである。そして今回、その際の情報を脳内ポケットから取り出したオレは実験的なデモを制作し、顔見知りのオペレーターW氏のいるライヴ・ハウスへと出向く。彼はサウンド・チェックの合間を縫ってそのデモをP.A.システムへと送ってくれる。
「.....どうかな?。」
「.....なるほど。いや、AXなら恐らくまだ行けますよ!。」
W氏の言葉に勇気づけられたオレは再びスタジオへ戻り、ブースト圧を上げた。準備は整った。


余裕かます臨時ベーシスト(笑)
live当日。
開場前からAXには大勢の観客が詰めかけていた。ステージには巨大な薔薇の花が吊られ、メンバーのサウンド・チェックが始まる。突然の事態から二ヶ月、正ベーシスト不在により四人だけのステージをこなして来た彼等にもう迷いは無い。順調にモニター・チェックと舞台装置のリハーサルが終わり、オレはオペレーターのY氏との打ち合わせに入る。この時点では、スピーカー・ユニットに対する音圧の不安はややあった。しかしY氏は「あんまり上げちゃうとアブナイけど.....」と言いつつ、フェーダーをマックスまで上げ、オレの顔を見てニヤニヤしながらオープニングS.E.をスタートさせた。次の瞬間、P.A.席脇にいた女性アシスタントは、可哀想に飛び上がりながら慌てて両耳を塞ぐ羽目になったのである。

AXを衝撃が襲う
.....満員御礼の客席はメンバーの登場を今や遅しと待ち受けていた。定刻をやや回り、客電が落ち、やや控えめだったBGMに代わってオープニングS.E."Sub Rosa"がスタートすると同時にAXは激しく振動し、満員のオーディエンスからは大歓声が上がった。これまでのDの公演と違い、厳粛なムードでは無くアップ・ビートの挑発的なサウンドに乗ってメンバーが颯爽と登場。メンバーをひとり失った筈のDは、逆に無限のプラス要素を手にオーディエンスの中へと駆け出して行ったのである。
.....ここでlive内容/セット・リスト等について書き記してしまう程、オレは大らかな人間では無い。何故なら、それはオーディエンス自身が体験するものだからだ。ただ、全ての演奏を終え、"EDEN/piano forte"に送られながらステージを後にしたメンバーと、興奮覚めやらぬオーディエンスの笑顔はこれまで以上にポジティヴだった事は確かな事実である。
.....当然、オレもだ!。


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